2026.09.01 先生を知る

音楽と向き合い続けた先生が生徒から学ぶことと教えたいこと

音楽と向き合い続けた先生が生徒から学ぶことと教えたいこと
INTERVIEWEE

音楽科教員 / 室内楽研究部顧問

山本 己太郎

武蔵野音楽大学器楽科ピアノ専攻を首席で卒業後、同大学大学院修士課程ヴィルトゥオーソコースを修了。
第20回「万里の長城杯」国際音楽コンクール第1位、第24回日本クラシック音楽コンクール第4位など、その他コンクールにおいても多数受賞。
自作曲がLINE MUSIC本社の電話保留音に採用されるほか、TV CMへの楽曲提供も行う。現在、LINE MUSICにて自作曲を配信中。

クラシックピアニスト、作曲家、そして暁星の音楽科教員。複数の顔を持つ山本先生が大切にしているのは「好き」ではなく「悪くないな」という感覚です。生徒たちの驚くべき発想、男子校ならではの表現の自由さ、そして「当たり前のように」続いた音楽人生――音楽を通じた教育の真価が、ここにあります。

生徒たちの多様な視点から気づかされることがあると語る

音楽に出会ったきっかけを教えてください。

山本先生

母親がピアニストなので、物心つく前から家の中には常に音楽が響いている環境でした。5歳から武蔵野音楽大学附属音楽教室に通い始めたのも、母に「ご飯を食べに行こう」と誘われ、気づいたら音楽教室に連れて行かれていた、という感じです(笑)。
音楽が好きか嫌いかという感覚は、幼少期からまったくありませんでした。当たり前のように音楽があって、当たり前のように続けていましたね。

中学・高校は普通の公立学校に進学されたと伺いました。

山本先生

埼玉県の公立高校でした。音楽高校という選択肢もありましたが、1学年40人ほどの狭い世界より、運動会などの学校行事を楽しみたい気持ちの方が強かったんです。
中学は陸上部、高校はテニス部に入って、授業して部活して、帰ってピアノの練習をして、ご飯を食べる。本当に普通の学生生活を送っていました。
高校2年生の時、初めて自分から「もっとピアノが上手くなりたい」と思い、自分に合った練習方法を探してみました。その方法が合っていたのか、コンクールで全国大会に出場。練習方法や奏法を試行錯誤したらもっと上達するのではと考え、高校2年生の春に音楽大学を受験することを決めました。

大学院へ進学して音楽を本格的に学び始めたんですね。

山本先生

大学3年生の春が大きな転機でした。周囲がインターンシップに行ったり、就職活動を始めたりする中で、音楽を続けていない自分を想像できませんでした。
十数年続けた音楽を趣味にはできないと思い、大学院でもっと学ぼうと決めました。単純に学びたい一心でした。将来や老後についてはあまり考えず、ただひたむきに音楽と向き合い、学び続けるうちに、いつしか多くの方々から声をかけいただき、様々な仕事を任されるようになりました。

クラシックだけでなくCMやLINE MUSIC本社の電話保留音を手がけるなど、様々なジャンルの曲を手がけていますね。

山本先生

クラシック音楽は、一音一音にこだわりを持ちながら、何千、何万個もの音を弾き、時代背景や作曲者の心情、自分の感情を重ねていく、いわば職人的な仕事です。一般の方が気づかないレベルまで追求する世界です。
一方、CMの場合、クライアントから送られてくるのは歌詞や全体の雰囲気だけです。何曲もサンプルを作り、クライアントのイメージに近づけて曲にしていきます。「いかに耳に残るか」「いかにキャッチーか」が重要です。
クラシックは自分の内側にあるものを表現するもの。CMはクライアントや聴き手に覚えてもらうための発信なんです。

大学院では、ただひたむきに音楽と向き合い、学び続けていた

教えることの面白さは、どんな時に感じますか。

山本先生

音楽は触れることも、匂いを感じることもできません。目に見えるものでもありません。そうした感覚的なものだからこそ、授業では答えのない問いを生徒に投げかけることがあります。その時、生徒たちが一生懸命考えて、感覚的に答えてくれる。その一言一言が本当に嬉しいんです。人によってこんなに違う反応をするんだなあと感じます。
例えば「100年後の音楽はどうなっていると思うか」という問いや、路上で演奏する人たちについてのコラムを読んで、その感想を書いてもらう。生徒のレポートを見ていると、「あ、こういう感じ方をする人がいるんだな」「こういう視点を持つ人がいるんだな」と気づかされます。生徒たちの声から自分にはない感覚や選択肢を学ぶ――それが自分自身の学びになっています。

授業の中で、生徒の反応に驚くことはありますか。

山本先生

音楽の授業では歌を歌ったり楽器を演奏したりするために、立ったり、移動したりします。そうした環境の中で、生徒から思いがけない質問が出るんです。
例えば「音楽なのに音がない曲ってあるんですか?」という質問がありました。ジョン・ケージの『4分33秒』――何も音を鳴らさず、空間の中に偶然発生する音を音楽とする作品です。「身の回りの音が音楽なんだ」という発見をして、実際にみんなでやってみたこともあります。生徒の小さな疑問や気づきに驚きつつ、嬉しくも思います。

学校で音楽の良さを伝える時に、どのようなアプローチが大事だと思いますか。

山本先生

「好きになってほしい」というより、「音楽って悪くないな」と思ってもらえたら嬉しいなと思うんです。
音楽という言葉は「音を楽しむ」と書きますが、古代中国では音楽・礼儀などを通して、人の心を調和させ、社会を整えるものという意味がありました。つまり、人の感情や心に働きかけるものということですね。
僕自身、2分の曲のために1年間、1日何時間も練習していたこともあり、音楽を極めることは楽しいというより、苦しいことの方が多かったです。それでも街を歩いていても、映画やドラマを見ていても、コンビニに入っても、どこかで音が鳴っています。その音によって感情や気分が変わることもあります。そうした瞬間に、生徒たちが「音楽、悪くないな」と思ってくれたら、それで十分です。

今の生徒たちが10年後、音楽とどう向き合っていてほしいですか。

山本先生

これまでピアニストとして様々な分野の方々と出会ってきました。政治家、医師、弁護士――社会的に活躍されている方々は、音楽好きが多いんです。生徒たちが将来そうした場面に出会った時、少しでも音楽について語れる知識を、授業を通して身につけてくれたら嬉しいです。
また、暁星はミッションスクールですから、将来的に友人の結婚式で聖歌を歌うことになるかもしれません。そうした時に当たり前のように歌える――そういう「大人」であってほしいですね。
音楽を極める必要はありません。ただ、知識や経験として、いつか訪れる人生の各場面で音楽を自分の言葉で語れる人になってほしいと思います。

様々な場面で音楽について語れる「大人」になってほしいという思いで教えている

暁星の学校サイトのBGMを作曲されたとのことで、作曲で心がけたこと、曲に込めた想いについて教えてください。

山本先生

朝、校門をくぐる生徒たちが、期待や不安など様々な想いを胸に抱きながらも、未来への希望を抱いて歩いていく姿をイメージしました。BGMにそっと響く小鳥のさえずりには、行事や昼休みに聞こえてくる、生徒たちの笑い声を重ねています。
冒頭と最後には校歌のメロディを取り入れ、この学校で過ごす日々への想いを込めました。

山本先生が作曲した、本校ホームページのトップページで流れるBGMはYouTubeでも公開しています。ぜひご視聴ください。

一覧へ戻る

この記事をシェアする

Le Journal de L'Etoile Le Journal de L'Etoile Le Journal de L'Etoile Le Journal de L'Etoile
Le Journal de L'Etoile Le Journal de L'Etoile Le Journal de L'Etoile Le Journal de L'Etoile